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2006年5月12日 17時16分 笑えない冗談
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傍目にもそれと解るほど己の顔が引きつるのをフィンゴンは感じた。
「マエズロスが冗談を言うとは珍しいな。だがそれは笑えないぞ」
「心外だな。祖父上の御前でマグロールと共に一曲歌を奏し申し上げよと言っただけだぞ」
未だ成年には間のあるフィンゴンだが、彼のその素っ気ない態度がごく限られた者にしか向けられるぬものだということには気が付いていた。いつもならその一握りに数えることの出来る己の立場の優位性と幸運を思い、全身でその歓びを表しつつ満面の笑顔で応える。だがこの時ばかりは飾らぬ彼が恨めしく感じられて仕方なく、素直にそれを爆発させた。
「いやだっ 絶対に歌なんて歌わないからなっ!
だいたいなんでマグロールとなんだ。マグロール一人でいいじゃないか。
わたしが歌うと韻を踏んでないだの調子っぱずれだの文句しか言わないくせに。
笑い者になるなんて絶対にいやだからな!
第一、そんなことになったら父上の顔がたたないじゃないか!」
大人の世界を知り始めた背伸びしたがりの子供が、反論を封じたことを確信している面持ちで相手を見上げた。
「確かに体面というものは大事だな」
「そうだとも。仮にも公子たるもの公の場で父上に恥をかかせるわけにはいかない」
「もっともだな。そしてそれゆえに私に名前を貸してくれと頭を下げに以前来たのも、同じ公子殿だったな」
思わぬ伏兵の出現にみるみる狼狽してゆく様に思わず顔がゆるむのを自覚しながらマエズロスはたたみ掛けた。
「祖父上の館の壁掛けを ま た 破いてしまったと。 叔父上にも申し訳ないから
気が付かれる前に私の名前で密かに繕いに出すわけにはいかないだろうかと言ってきたのは、
この同じ口だったと思うのだが〜?」
口角をつまんでひっぱってやれば、フィンゴンは顔を真っ赤にしてじたばたと暴れる。思った通りの反応を返す様に、まったくもって飽きない奴だと内心マエズロスは笑った。
「ずるいぞマエズロス! そんな前のことを持ち出すなんて男らしくないぞ!」
「それを言うなら自分の所業を隠蔽する行為はもっと男らしくないと思うぞ。
ほら、マグロールがしびれを切らす。ここは男らしく覚悟を決めろ」
「わたしの歌なんて誰も聞きたがらないよ!」
一筋の藁にも縋る想いで子供は最後の抵抗を試みた。
「そんなことはない。お前は声はいいんだ。マグロールと合わせれば調子を外すこともないだろう?
この際だ。少し鍛えてもらえ」
声ばかり大きい音痴となじられたこともあるんだが、といつまでも愚図りながらもようよう諦め部屋に向かえば、絵に描いたようなフィンゴンの仏頂面に苦笑を禁じ得ないマグロールが出迎えた。
手に手に役目を終えた道具持ち下がっていく侍女達と入れ違いにマエズロスが入室するとたまの機会に腕をふるった侍女達のその成果があまたず発揮され、美々しく飾り立てられたフィンゴンがいた。ヴァルダの煌めきを受ける波間の色を写した生地に銀の刺繍を施した装束がよく似合っていたが、外側の美々しさとは反比例して、本人の渋面はいや増すばかりだった。
「似合ってるじゃないか。歌も稽古を聴いた限りではなかなかのものだったぞ。何がそんなに不満だ?」
そんなことも解らないのかとフィンゴンはこれだとばかりに髪を引っ張ってみせる。髪に編み込まれた矢車菊に薫衣草、それに勿忘草といった蒼い花々が、黒髪や衣装の色と相まって更に全体を引き立てていた。
「なんで私ばかりこう花で飾られなければいけないんだ? マグロールと同じようなのがいい」
「わたしが大地ならばフィンゴンが水担当でしょう? 今日の歌はそれらを賛美したものだもの」
竪琴を抱えなおしながらそう穏やかに答えたマグロールの出で立ちはと言えば、黄土色を基調とした装束に、猫目石や緑柱石といった石で髪をあしらっていた。それならば青い石でいいじゃないかとフィンゴンは反論したが、水あってこそ花が咲くとマエズロスに諭される。
「アレゼルが張り切って摘んできた花だぞ。期待に応えてやれ」
「それ絶対に面白がってるだけだ。普段は花なんかに興味なんてろくに示さないくせに」
フィンゴンの愚痴は最後まで止むことがなかったが、二人並んだその装いの美しさと予想外に調和した歌声の素晴らしさにフィンウェは終始二人を褒め称え、フィンゴルフィンはそっと胸をなでおろした。
本当は一日一作で一週間なお題というものなんですが、一年以上は優にかかってようやく5つ目、です(^^;;;; 文章なんて普段は書かないので恥ずかしいからと裏に置いていたのですが、あと一つ出来たら表に出すと言っていたので表に出しました。Silmarilのメニューからいけます。
私信。某園の園丁様へ。
バトン確かに受け取りましたv
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